身体性ロボティクスの研究の中でも、二足歩行ロボットの研究は、人の知性がいかに「脳の外側」を動員して行われているものであるかを明らかにしてきた。

ASIMOは人間型の自律二足歩行ロボットとしては世界でも最先端と言われており、1996年にASIMOの前身である本田のP-2が発表されたときは、全世界に衝撃を与えた。ASIMOは文字通り「あたま」で考えて動くロボットで、全身の26箇所の関節を中央のコンピュータで制御して動かす。世界で最先端の二足歩行ロボットとはいえ、その動きはヒトと比べると決してなめらかとは言えず、実際エネルギー効率もヒトのおよそ16分の1程度であると言われている。1

一方で、ASIMOのように全身の関節のモータを中央のコンピュータの指令に基づき制御する、という発想とは根本的に異なる発想でつくられている一連の二足歩行ロボットが知られている。これらの二足歩行ロボットは「受動歩行機械(Passive Dynamic Walker)」と呼ばれ、各関節のモータを使って全身を駆動する代わりに、重力や身体の動きが生み出すモーメントを利用して動作を実現する。

彼らは「あたま」を使って動くASIMOとは対照的に、(モータを制御するコンピュータをもたないという意味で)いわば「あたま」を取っ払われたロボットで、彼らの動作を生み出しているのはあたまではなく、身体のかたち(morphology)やあるいは重力やモーメントなどの物理法則そのものである。 このように身体と物理法則を積極的に利用して動く受動歩行機械のエネルギー効率は、実際のヒトのそれに匹敵すると言われており、ヒトの歩行はASIMOのそれよりもむしろ受動歩行機械のそれに近い方法で行われているのではないかと考えられている。

二足歩行ロボットの研究は「ヒトの知性は脳が生み出している」という素朴な考え方に疑問を投げかける。ヒトは脳だけを使って行為を実現させているわけではなく、むしろ身体や環境が持っている能力をうまく生かしながら、脳と身体と環境との協力関係の中で、行為を実現している生き物なのである。