私たち人間は、文字通り様々な「間(あいだ、はざま)」に立たされた存在である。次章以降で詳しく見ていく通り、私たちは様々な分裂や葛藤や矛盾を抱えた存在であって、「呼吸」という、私たちの生を支えている最も基本的な過程にすでに、そうした分裂と葛藤の傾向の現れていることは、すでに前節で見た通りである。
こうした分裂や葛藤は、様々に対立しあう二極構造を私たちに突きつける。 そして、そうした二極構造を強調し、対立する諸概念を競合させながら、なんとか統合させていこうとする過程として、人類の文化は発展してきた。
このように、対立する二極を打ち立て、競合させながら統一を目指していくダイナミックな知の過程を(様々な極を立ち上げ、積み重ねていくという意味で)「積極的」思考と呼ぶことにするならば、ギリシアに端を発する西洋学問を支えてきたのは、まさにこの「積極」であったということができるだろう。
しかし、このセミナーでは、あえてまったく違った行き方がありうるのではないかということを提案し、試行錯誤をしてみたいと思っている。それは、極を積み重ねていくという意味での積極的な思考に対して、極を消していく「消極的」思考ともいうべき方法である1。それは「考える」ことよりもことばの真の意味での「思う」ことに寄ったアプローチになるであろう。